・土壌生物の種類も数も多い土
次に健康な土というのはいったい何なのだろう、ということです。まず土の健康を支えているのはいったい何なんだ、それは土の中のいろんな生物です。微生物、細菌、ミミズ、ダニ、トビムシとか、いろんな土壌生物、これらがトータルで種類も数も多いほど土は健康に育っているというふうに考えていいと思います。
有機農業では、土の中にいろんな有機物が入っていくように、堆肥を入れたり、緑肥作物を育てたりして、いろんな生物が、種類も数も増えていく方法をとるわけです。そういう健康な土にすれば、仮に土壌の中に病原菌がいたとしても、その病原菌が作物にとりついて被害を与えるほどには繁殖しないということです。いろんな種類の生物がたくさんいるということは、それが抑止力となって働くわけです。ちゃんと土ができてくれば、トマト、ナス、エンドウ豆など、連作障害がものすごくキツイといわれている作物でも、連作障害がでない、そういうことが起こりうるわけですね。こういう連作障害の起きないような、いろんな生き物が繁殖するような土になれば、作物はおのずとその肥沃な土壌で本当の育ち方をするということです。
・いい匂いのする土
有機栽培の畑の土はものすごくいい匂いがします。土本来の匂いというのは、放線菌が出す匂いなのです。カビの匂いとはちょっと違います。この放線菌というのは土壌の微生物のなかでいちばん数が少ない微生物です。その微生物が匂うということは、他の微生物がたくさん棲んでいるという証拠なのです。
数年前、消費者の人たちと有機栽培の畑に行ったときのことです。農道をはさんで反対側の、キャベツとネギの専作をしている、化学肥料と農薬をバンバンかけている畑の土をちょっと失敬して匂いを嗅いでもらったんです。そしたら土の匂いがぜんぜんしない。土の匂いがしないということは、放線菌がいないということで、ほかの微生物の種類や数は推して知るべしということです。こんなふうに土の匂いひとつとってみてもこれだけ違うことがありえるわけです。
しかし、土の匂いはしなくても、その畑のキャベツやネギもちゃんと育っています。それはなぜかといったら、化学肥料と農薬に支えられて育っているわけです。そこの土は実質的にはもう死んでいるのです。土壌生物がほとんどいない状態。したがってそういう土がずっと続くことは、私はありえないだろうと思うわけです。そこで作物をつくろうと思えば、化学肥料をいっぱい入れて、農薬をかけないとやってられないとわたしは思います。
・緩衝<かんしょう>能力の高い土
土が健康であるということは、緩衝能力が高いという意味でもあるのです。緩衝能力というのはショックを緩める力というふうに考えていいと思います。緩衝能力が高いとどういうことが起きるかということを、土の酸度、pH(ペーハー/7.0が中性)を例にあげて説明します。
ホウレンソウは酸性土壌では作れないとよくいわれます。それでも在来の日本ホウレンソウの方が、あとから入ってきた西洋ホウレンソウよりも酸性土壌には強いのです。ここに同じような土壌で、同じ5.5のpHの土が2種類あるとします。5.5は日本のホウレンソウが生育できるギリギリのpHです。ホウレンソウの種を蒔いたら、Aの土はやや生育が悪いものの、そのままずっと育ってちゃんと収穫できました。Bの方は本葉が2、3枚できたところで元気がなくなり、真っ黄々なって最後は枯れてしまったのです。
さて、おなじpHの土なのに、どうしてそんなに違いが出てしまったのでしょうか。これが緩衝能力の違いです。土壌の中の養分を作物が地上に吸い上げると、ホウレンソウだけでなく、どの作物でもそうなんですが、根の周りの土のpHが1ぐらい下がります。このとき、緩衝能力が高い土だと、下がったpHを即座に元に戻すだけの余力があるということです。体力があるといってもいいでしょう。そういう回復力のある、緩衝能力か高い土、それが私がいう健康な土なのです。そういう土ができれば同じpH5.5でもホウレンソウはちゃんと育つのです。緩衝能力のない土のホウレンソウは低いpHに耐えられなくて、根から腐っていくわけです。
土壌診断に行くと、「あんたんとこpH低いよ、石灰入れなさい。そうしないとホウレンソウ育ちませんよ」といわれるのがふつうですが、本当にその土が緩衝能力が高いかどうか判断はできないわけです。だから安易に石灰を入れて土の酸度を中和するのではなくて、私たちは健康な土にするような方法を取ればいいということです。
緩衝能力は、pHのような土の化学性にいえることですが、他にも生物的な意味合いでも使うことができます。生物的な意味での緩衝能力が高い土とは、連作障害を起きないか、おきにくい土です。また、土壌病原菌の抑制をする能力の高い土、こうした土壌のことを、抑止型土壌ということもありますが、要するに健康な土なのです。 |