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10. 酒は百薬の長
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この格言は、ニ千年前中国で書かれた歴史書の中に出てくる言葉で、「夫(そ)れ塩は食肴(しょくこう)の将、酒は百薬の長、嘉会(かかい)の好、鉄は田農の本(もと)」という一節を由来としています。「飲み過ぎなければ酒ほど体に良いものはない」という意味に解釈するのが一般的です。 |
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実は私は全くの下戸なのです。医者からも「貴方はアルコール分解酵素を持っていないので、いくら訓練しても飲めるようにはなりません」とまるで死刑判決です。私の70年の生涯でこれほど悔しいことはありません。身体を壊し、命を縮めるのも承知で飲みたくなるほどの魔力を持っている酒なのですから。もし再びこの世に生を得ることがあれば、今度こそ大酒呑みに生まれ替わりたいと、本気で思っている位です。そういう私がおこがましくも酒にまつわる文章を書くことになったのは何とも皮肉なことですが、これこそ天命というものなのでしょうか。 |
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私はこの「酒は百薬の長」という格言に出会う度に、いつも「じゃあ下戸はどうすればいいの?」と思い続けてきました。格言やことわざは本来万人共通のものの筈です。これほど不公平な格言は他にあるでしょうか。二千年も昔の中国の故事を日本社会に根付かせたのは、一体何処の誰なのでしょう。下戸には不愉快極まりない格言だと思ってきました。しかし、料理酒<蔵の素>の蔵元 大木代吉本店さんが東京農業大学酒類生産学研究室に依頼して作成された「蔵の素のアミノ酸組成」を見て、ある閃きを感じたのです。そこには我々の身体の元になっているアミノ酸20種類のうち16もが数字と共にびっしり並んでいたのです。その上、注釈として「本品にはビタミンC、B1、B2、B6、食物繊維、ペプチド・タンパク、ニコチン酸、葉酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトールB2等、100種類以上の機能成分が含まれています。」とあるのです。丁度アミノ酸飲料がブームになっていたこともあって、「百薬の長」の大きな手懸りを掴めるのでは思ったのです。
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酒は、本来この世には存在しない「酩酊」という生理現象をもたらしてくれる不思議な飲み物として珍重されてきたものです。その不思議さ故に神社仏閣と結びついたのに違いありません。その後千年前の平安時代あたりから、調理にも使われるようになってからは素材を美味しくする力に気付き、その不思議さが更に増幅したのではないでしょうか。古代の酒は精米技術の未熟さが幸いして、米の栄養成分が殆んどそのまま酒に取り込まれていた筈です。昨今の淡麗辛口とは対極の濃厚な酒だったでしょう。奈良時代、天皇の勅命で書かれた『丹後国風土記』に面白い話が残っています。強引に養女にしてしまった天女が造った酒が評判を呼び、老夫婦が大儲けをしたというのです。この天女が造ったといわれている酒は恐らく『薬酒』だったに違いありません。分析技術の急速な発達で、アミノ酸をはじめ、多くの微量成分まで日本酒から検出されてみると、その薬功に注目せざるを得ません。最近のアミノ酸ブームも頷ける話ではあります。 |
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こうなると日本酒に含まれているアミノ酸や各種ビタミン類など100以上もの成分を取り込むためには、日常的に調味料として良質な日本酒を使う事が、最も簡単で、効率的な事になります。
では、日本酒に多く含まれているアミノ酸にはどんな薬功があるのでしょうか。
含有量の多い順に並べてみます。 |
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グルタミン酸 |
疲労回復 |
アラニン |
肝機能向上 |
スレオニン |
タンパク質の有効摂取 |
アルギニン |
成長力・免疫力向上 |
ロイシン |
エネルギー源 |
リジン |
集中力・受精率向上 |
アスパラギン酸 |
体内老廃物処理 |
グリシン |
抗菌・酸化防止 |
チロシン |
脳の代謝促進 |
フェニルアラニン |
気分の高揚 |
バリン |
エネルギー源 |
セリン |
痛み止め |
プロリン |
皮膚の老化防止 |
イソロイシン |
成長促進 |
ヒスチジン |
ストレス軽減 |
メチオニン |
コレステロール低減 |
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こうして見てみますと、まるで万能薬の効能書きを読んでいるような気になってしまいます。しかも、これらの効能は、我々一般人に馴染みのあるものだけを一つだけ抜書きしたもので、医学的に見ればまだまだ多くの効能があるそうです。 |
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「酒は百薬の長」という格言は、どうも呑兵衛さんのためだけのものではないのではないかと思えてきます。酒を調理に使えば、素材を美味しくするばかりか、老若男女すべての人に恩恵をもたらすものだという解釈を加えても良いのではないでしょうか。そうでなければ下戸は救われません。更に冒頭に書きました「塩は食肴の将」という言葉と対になっているということは「酒塩」という和食文化の基本理念とも重なるような気がしてなりません。日本酒の成分を分析した訳でもないのに、こうした格言が生き続けているというのは、我々日本人の素晴らしい感性の賜物だと思うのです。 |
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