土を育てる具体的な方法
さあ、いよいよ土つくりの具体的な方法に入ります。
前回で保留にしていた
(1)ソルゴー・デントコーンなどのイネ科やマメ科の、牧草のような有機物生産能力の高いいろんな植物を栽培し、たえず有機物を土の中に入れてやること。
(2)(1)の項目と関連して、輪作体系を導入すること。
(3)間作・混作のように、種類の違う(科の違う)作物を同時に、あるいは連続して、栽培すること。
のうち、(1)からはじめましょう。
○「草生栽培」 - 草を生かす方法
ここで、大切な有機農業の原則があります。それは、「土は栽培を続けると、それだけ肥沃になる」ということです。したがって、牧草を生やすことは、土の中に有機物をたっぷりと入れることにもなるのです。
牧草がびっしりと生えれば、生で10アールあたり10トンは軽くいきます。しかもそれは地上部、つまり目に見える部分だけで、根がものすごく張りますから、根群の量もバカにはならない量になります。この根だけでも新鮮な有機物がたっぷりと土に供給されるのです。なにも有機物をいっしょうけんめい土のなかへ鋤きこまなくても、草が勝手に根をのばしてくれるのですから、ありがたいことです。そして、新鮮な有機物が土壌の生物たちにとって大好きなえさとなるのです。
このように、草を利用して、土つくりをしながら作物を育てようというのが「草生栽培」という方法です。窒素固定をしてくれるマメ科植物をつかって、これにイネ科の草を同時に育てたりして、土をつくってゆくのです。
マメ科植物には、ルーピン、レンゲ、クローバ、アルファルファ、ヴェッチ、青刈りダイズなどをつかいます。クローバは株立ちのものをつかいましょう。匍匐茎(地面をはいながら根を出してひろがるもの)をもっているのは、はびこりやすく、後始末にこまるので、やめたほうが無難でしょう。
○ここでちょっとひとこと
やせた土でも、マメ科植物なら何も養分をあたえなくても自前で窒素固定(*1)をしてくれるからだいじょうぶだと思っておられる方が多いのですが、これは間違いです。そのわけを説明しましょう。
(*1)窒素固定 … 生物が空気中の遊離窒素を体内に取り込み、アンモニアまたはその誘導体であるアミノ酸(たんぱく質)などに還元する現象。その作用を営むのが窒素固定菌という土壌中の細菌で、単独窒素固定細菌と、マメ科植物につく根粒菌などの共生窒素固定細菌がある。
マメ科植物であっても、植物が育つには養分が必要です。ところが、やせた土だと養分が少ないので、自分の身体も満足につくれません。このとき、マメ科植物の根に根粒菌が「付いてあげようか?」といったとしても、マメ科植物は「いらない!」と断ってしまうのです。なぜなら根粒菌が窒素固定するのにはエネルギーがいります。そのエネルギーはマメ科植物からもらうのです。やせ土のマメ科植物は貧乏ですから、根粒菌にエネルギーを分けてあげる余裕はないのです。ではどうすればよいのでしょう。
マメ科植物がまだ小さいとき、あるいは種まきをしたときに、あらかじめ養分をあげることです。あげすぎもいけませんが、いずれ説明するようなボカシ肥をあげるとよいでしょう。そうすると、マメ科植物は元気に育ちます。当然、根粒菌に分けても十分なエネルギーが光合成でつくれるわけです。こうなると「付いてあげようか?」と根粒菌がマメ科植物の根にちかづくと、「どうぞ、どうぞ」となるわけです。
試しに、根を掘ってみましょう。根元ちかくにイボみたいなのがついています。これが根粒なのですが、これを数個ちぎって、ナイフで二つに割ってみましょう。元気な根粒はまん中が赤い色をしています。いままさに窒素固定のまっ最中なのです。根粒の中が白いままだと窒素固定はしていません。マメ科植物の栄養状態がわるいと、せっかくついた根粒菌も働かなくなるので、割ってみると中が白いか、小さな無効根粒になってしまいます。
○原則は刈敷き、鋤きこんではダメ
草生栽培の原則は、刈っては土の上におく「刈敷き」です。土の中に草を鋤きこむと微生物がいっせいに分解を始めます。ヘタをすると土の中の酸素はなくなるし、分解にともなって土中の養分までもが奪われるといったことになりかねません。こうなるとせっかく作物を植えても育たないのです。だから、生でも乾燥していても牧草は大量に鋤きこんではダメなのです。
○草はなんどでも刈りましょう
草をあまり大きくすると分解しにくくなります。だからといってあまり小さいうちから刈ってしまうと、あとが伸び悩みになってしまいます。土がやせている程度にもよりますが、少なくとも30センチ以上はのばしてやりましょう。ただし、刈るときのコツですが、草の勢いが弱いときは株元から10センチ、強いときは5センチは残してください。株元ギリギリに刈るとせっかくの新しい芽まで刈り取ってしまうので、刈り株からすぐには草が出てこなくなるからです。
刈りかたはよく切れる大鎌がよいでしょう。機械で刈ってもよいのですが、力が強すぎて刈り株の切口が痛みます。大鎌でスパッと切るのが傷口の治りもはやくて、再生がはやくなります。刈った草は畝と平行になるように土のうえにおいてゆきます。森の土の状態を再現するのです。こうすると土が乾きにくく、雨が直接あたらないので、土が流れたりしません。
ルーピン、クローバ、ヴェッチなどはヨーロッパの涼しいところが故郷です。日本の夏は暑いので、生まれ故郷が涼しかった草には夏休みが必要です。梅雨があけるころには、刈らずにそっとしておいてあげましょう。秋雨が終るころには、草はまた元気をとりもどします。湿気る土地なら、畝は高くするとよいでしょう。マメ科植物は深根性で、根が深く張りますから、わりに乾いたところでも平気なのですが、湿気にはよわいようです。
○手のあまりかからないぐうたらな草生栽培
ぐうたらのコツは、畝の肩を利用して、牧草をつくる方法です。畝から斜面にかけて、じゃまくさければ畝間にも牧草を生やすのです。そうして伸びてきた牧草を大鎌でスパスパと切りながら、そのまま畝の上においてゆくのです。図2に描きました。このままで畝はくずれないし、土は肥えてくるし、病気や害虫にも強くなります。
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