さて今回は、秋・冬にかけて作付けが多くなるアブラナ科の野菜について話をすすめてゆきましょう。
アブラナ科の野菜は種類も多く、それこそ世界中に広まっています。古くから食用に栽培されており、それが再び野生化したり、反対に後から野菜になったりと、けっこう品種の分化も複雑です。しかも互いに交配しやすく、雑種や中間種がいくらでもできてしまうので、生まれ故郷が特定しにくい野菜になっています。自家採種の時は、交雑しないよう注意しなければなりません。
アブラナ科 キャベツ
○キャベツがなかなか萎びないわけは?
キャベツの生まれ故郷は地中海の沿岸、石灰岩の多いところを好んで成育します。野生種は栽培種のように結球することはありません。葉がパラパラと出て、まるでゴワッとした毛のはえていないケールのような印象です。
日本へは明治初期にやってきました。いまでは食卓に欠かせない野菜の一つになっているほど、人気のある野菜ですが、よくぞ普及したものです。それというのも、キャベツは煮ても焼いても(は無理か)というか、煮ても生でもおいしい野菜で、甘みが強く、保存性がいいのが特徴です。
おもしろいことにキャベツは、放っておいてもなかなか萎びてきません。そのわけは、キャベツの細胞が水分を徐々に失いながらも、その分、細胞が小さくなっていつも張り詰めているからです。もちろん限度はありますが、ほかの野菜にくらべて、萎びるまでの期間が長く、ついつい保存していたのも忘れがちになるほどです。でも保存するほど、鮮度とビタミン群は壊れてゆくので、食べるのは早目に。
○キャベツの生育環境
キャベツに適した土壌の酸度は中性に近いかやや酸性で、pH5.5〜6.5くらいがもっともよく育ちます。これより酸性になると、どういうわけか根の抵抗力が落ちてきて、ネコブ病菌がつきやすくなります。ネコブ病は土壌病原菌によって感染する、アブラナ科特有の病気です。ネコブ病菌を防ぐには、なによりも土壌を過湿にしないこと、酸性にしないことが必須条件です。似た名前にネコブセンチュウというのがあります。これも根にこぶをつくり、根菜類をだいなしにしてしまいますが、ネコブセンチュウの方はアブラナ科だけにつくのではありません。
キャベツは土質は選びませんが、土壌の保水力によって作型がきまってきます。それは砂土のように保水力があまりない土壌では、養分も抜けやすいので、冬・春作を中心とした早生<わせ>種が適しています。早く大きくした方が有利だからです。反対に保水力のある、壌土質(*1)の土では、保水力・保肥力ともにあるので、ゆっくり大きくなる、中生<なかて>・晩生<おくて>種が適しています。
(*1)壌土質 … 小石を除いた土壌中に、粘土をある程度含むもの。作物栽培には好適。
根は表層近くに多く分布しますが、株もとを中心として直径1mくらいの範囲にびっしりと根群をつくります。根群の発達がいいために吸肥力が強いので、養分のやりすぎは禁物です。むしろ前作で残った養分を吸収させ、不足分を元肥と結球開始前に施用するようにした方が、虫も付きにくく、甘みのある良品がえられます。キャベツをつくるのは土壌養分の掃除をかねて、くらいに考えた方がいいのでしょう。
成育の適温は20℃くらい。30℃を越すような高温は苦手で、反対に低温の方がよくて、5℃くらいでもゆっくりと育ちます。0℃では生長こそしませんが、枯死することはなく、マイナス15℃でも平気で越冬します。
○いい結球をさせるには、まず
発芽後の双葉が、みるからに分厚くしっかりしていてそろっている苗を選びましょう。そして発芽後、30〜40日くらいの間に定植します。チャボ球(下図)の発生条件を考えると、定植時に気をつけることは、あまり生長のいい大苗をつくらないことと、乾燥しないようにすることです。
故郷を考えると、キャベツは結構乾燥に強いのですが、強いとはいっても、保水力のある土地の方が成育はいいのですから、過湿は例外としても、水分が適度になければキャベツは生長できません。
したがって、乾燥して根いたみが起こらないように、定植は曇りの日を選ぶのがコツです。キャベツをつくった経験のある方なら、乾燥したため根群の発達が悪く、栄養をうまく吸収できなかったことなど、チャボ球ができるのには思い当たることがあるはずです。
○外葉が大事なのだ
結球するまでのあいだ、外葉、つまり開き切った状態の大きい葉が次々と展開してゆき、発芽後の本葉から18〜20枚で結球が始まります。また品種、つまり早生や晩生にかかわらず、外葉の数は同じなのです。これは重要なので覚えておいてください。
早生と晩生とではどこが違うのかといいますと、早生よりも晩生の外葉は重いのです。その分、葉の充実に養分がいりますし、時間もかかります。そのために結球に入る時期も遅くなるというわけです。
となると、外葉をいかに大きく、丈夫に育てられるかが、良質の球を得るためのコツなのです。これがいかに重要かは、次の事実を考えてもわかります。ときどきヨトウムシに外葉を食われて、葉脈しか残らず、まるで紙のとれた骨だけのウチワのような、悲惨なキャベツを見かけることがあります。こんなになると結球しないのでは、と思われがちですが、そのまま放っておくと小さいながら結球するのです。なぜか?それは葉脈に栄養分がたっぷりと蓄えられているからです。葉脈は貯蔵庫だったのです。むろん葉があるに越したことはありません。葉脈だけになったようなキャベツの結球は売り物にはなりませんから。
結論を申します。「外葉をどれだけ健康に、大きく育てることができるか」で結球の大きさも決まってくるのです。結球前の栄養条件がもっとも重要なので、結球が始まってからの施肥はまったく効果がありません。通常、展開してせっせと光合成している外葉の数はおよそ10枚くらいです。この葉を大切にすることが、コツなのです。
ところで早生の球は小さく、晩生では球が大きくなっていますが、球の中で捲いている葉の数は早生・晩生いずれも同じです。ということは、早生の葉は薄く小さく、晩生では厚くて大きいということなのです。何だか早生だと損したみたいですね。でも晩生ばかりだと産地が片寄るし、なによりもいろんな季節にキャベツが穫れないのです。
○播き時も大事なのだ
播き時を説明する前にひとこと。キャベツの種は、発芽時に光はいりませんが、酸素を必要とします。早く発芽させようとおもって、潅水しすぎると、土によっては覆土が固くしまってしまうことがあります。こうなるとキャベツの種は呼吸ができないため、発芽しなくなってしまいますので、ご注意を。
さて春播きから順に
[春播き] 春に播いて、夏から秋にかけて収穫します。暖地では気温の上昇にあわせて大きくなる中生<なかて>種が向いています。温床に早播きして大苗ができたとしても、花芽がつかないよう低温にさらす期間を避けられれば結球前に花が咲いたりはしません(花芽の分化には10℃以下に20〜30日さらす)。
[夏播き] 夏に播いて、秋に定植し、12月〜3月に収穫します。キャベツは高温に弱いので気温が高い期間は寒冷紗で日よけし、高温を避ける必要があります。
[秋播き] 秋に播種・育苗して定植します。このころにはだいぶ涼しくなっていますし、冬はそのままじっと越冬させるのです。そして春の適温で生長を開始させ、結球させるのです。寒冷地では苗の状態での越冬がむつかしいので、暖地か中間地が向いています。ただし、気をつけなければいけないのは暖冬で、花芽がでてしまって結球しなかったりします。
○まとめに
キャベツは窒素をかなり多く吸収するのですが、同時に窒素よりもたくさんのカリウムを与えると、順調に健康にキャベツが大きくなるのです。
キャベツの効能はカリウムをたっぷりと含んでいるため、便通が非常によくなることです。尿意を頻繁に催すこともあります。ナトリウムのとりすぎにも効きます。生で食ってよし、煮て食べてもおいしいキャベツは、カブの葉の次に、おすすめする健康食品です。
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