ぐうたらでうまく作物を育てる方法は? どうすればよいでしょう。まず第一に、愛情です。そのつぎには、作物の生まれ故郷がどんな環境だったかを考えてあげるのです。それも愛情かもしれません。さて愛情からひとまず説明しておきましょう。
○栽培する人のクセが作物にあらわれる
ずいぶん前のことなので、何年前だったかはっきりとは覚えていませんが、みごとな作物が育ったのを目の前でみたことがありました。それは保健婦さんから依頼されたのがきっかけだったのです。精神障害者の方たちのリハビリに作物を栽培したいのだけれど、農薬はつかえないし、できれば有機農業でしたいのだけれど、教えてもらえないか、という内容でした。さっそく二つ返事でひきうけ、ボカシ肥をつくったり、種をまいたり、土を鍬でおこしたりと、せまい農地でしたが、あわただしい作業が続きました。
私がおどろいたのは、ジャガイモ・ネギ・トマトなど、どの作物をみても、じつに素直に、のびのびと育っていたのです。ジャガイモはジャガイモなりに、ネギもトマトも、作物本来の姿をして、見るからに健康でいきいきとしているのです。
化学肥料をたっぷりやった作物とくらべてみると、全体に小振りでした。しかし、葉の色は薄緑がみずみずしくて、枝の太さからすると重そうなトマトがたわわについている様はみごとというほかありませんでした。ようするにバランスがとれているといいますか。
春・夏の作物が一段落したあと、みんなでミーティングをしました。そのとき私は患者のみなさんに、「何がいちばん楽しかったですか? キュウリやジャガイモ、トマトがたくさん収穫できたからですか?」と聞いてみたのです。すると、「毎週畑へいくたびに、作物が育ってくれる。世話をしたら大きくなってくれるのがいちばんうれしかった」。そう答えられたのです。それを聞いて私は、なぜ作物が素直に育ったのか、ようやく納得がゆきました。患者さんの素直な心に、作物が応えたにちがいありません。
患者さんの心の病は、本来純粋すぎて、矛盾を人にぶつけられなくて、結局自分を傷つけてしまう。きっとそうにちがいない。収穫物を喜んだのは、世話をした私たちの方だけだったようです。
作物は「人となり」がじつに正直にでてきます。育てる人の性格が、作物を見ていると手にとるようにわかります。私が顧問、といってもじつに不真面目な顧問なのですが、京都大学有機農業研究会というのがあります。不真面目な顧問の言い訳になるかもしれませんけれど、学生諸君がそれぞれ自分の思いや工夫でもって、有機農業をやっているのだから、それを端からとやかくいうのも何だとおもって、じっと見ていることにしたのです。まあ、学生諸君のしていることは、ひょっとするとブラウン運動のようなものかもしれません。それはそれで、いいことなのですが、かれらの畑を見にいって、作物を観察してみると、下宿(今は流行らず、ワンルームマンション)の片づけ具合、ノートの取り方など、まるで見ているように、想像がつくのです。
作物をどのように手入れしているか、草をマメに刈っているか、支柱の立て方や結び方など、たとえ週に1回しかいかなくても、作物の育ち方はまったくちがってくるのです。
○サボテンはしゃべる
バーバンクという有名な育種家がおられました。たくさんの園芸品種を創りだした方でしたが、彼が最後に育種されたのが、トゲなしサボテンです。
サボテンしかない乾燥地で、ヒツジが口をトゲだらけにして、痛々しくサボテンを食べているのを見て、トゲなしサボテンの育種を決意されたそうです。何度やってもうまくゆきませんでした。最後にバーバンクは「私が守ってやるから、トゲを出さなくていい」と何度も呼びかけながら育種されたそうです。そうしてできたのがトゲなしサボテンです。バーバンクのおかげで、乾燥地のヒツジたちは、口をトゲだらけにしなくても、サボテンを食べられるようになったのです。
この話は、本当にあった話です。サボテンはしゃべる。つまり、生きものどうし、意思の疎通ができるのです。となれば、さきほど私のいった、「栽培する人のクセが作物にあらわれる」というのも、間違いないことがわかっていただけるでしょう。
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